認知症の通販トラブルと対処法 いまとむかし

介護アイデア

祖母の変化を受け止められなかった

祖母の異変に最初に気づいたのは、すぐ近くに住んでいた、わたしでした。

祖母は高齢になり仕事を辞めたぐらいから、時間の余裕ができたのか、よく「ご飯を作ったから食べにおいで」と留守電が入るようになりました。これまではお互いに仕事中心で何時に家に戻れるかわからない関係でした。それが変わり、祖母の優しさがわたしには負担になり、あまり好きではない果物をもらった時などには、要らないといって返した事さえありました。

祖母は自立していて、ユーモアもある優しい人でした。小さなころからずっと、困った事があると相談に乗ってもらっていました。両親が反対をするような事でも、彼女だけは「美愛(みあ)の思う通りにやりなさい」といって励まし、背中を押してくれました。いつも頼っていたのに、祖母からの連絡の頻度が増えた事をわたしは受け止めきれずにいたのです。

それでも、やっぱりおばあちゃんの事は大好きでした。だから、時間に余裕があれば彼女が在宅していそうな時間に顔を出すことは続けていました。

生れて初めて見た祖母の動揺した姿

祖母から珍しく「頼みごとがあるから来て欲しい」と留守電が入っていた時のことです。部屋に入ると、ソファーの上に横幅の大きな、浅めの段ボールがあって、中にたくさんの衣類が入っていました。

「美愛、こんなに商品が届いて困ってるの。これが何だかわからないから見てちょうだい。美愛ならこれが何だかわかるでしょう?」と、生れてはじめて、祖母の動揺した姿を目にしました。

祖母の言葉を信じ、一方的に送り付けられてきた可能性もあるなと思いながら、この事態をなんとか解決しなければと考えました。

個人情報保護が理由で問い合わせに時間がかかった時代

箱に同梱されている商品明細から購入元と連絡先電話番号を見つけ出し、早速その番号に掛けました。

「家に大量の衣類が届いているのですが、この商品はどういった経緯のものなのでしょうか?」とたずねると、窓口の人は「個人情報保護の為」から話をはじめ、「お客様はご購入者様ご本人ですか?」や、わたしと祖母の関係など、こと細かく聞いて来ました。

散々時間を費やした後で、注文したことを覚えていないのは本人だけだという事が判明。

そして大量の衣類の正体は、『3枚セットで購入すると、今だけ特別!更に3枚おまけでお付けしちゃいます!』だったりして、ものすごい量が届いていたというものでした。

『認知症』への理解が今よりもっとなかった時代

当時まだ認知症という言葉はなく、誤解を招くような呼び名が使われていました。

病名の周知度も低ければ、『認知症』に対しての理解や知識もほぼなく、症状や進行についてはわからない事だらけ。親類縁者でこの病になった人の話を聞いたこともなく、当然わたしにとっても、それは無縁のものでした。

そんな時代に祖母が通販でよくわからない買い物をしたとしても、わたしにはピンと来るものが全くなく「おばあちゃん、もう、テレビ通販で買い物しないでね」としか言いようがありませんでした。

それでも祖母はその後も何回か同じことを繰り返し、その都度わたしに助けを求めて来ました。

認知症の通販トラブルと対処法 いまとむかし

祖母が注文した商品がすべて返品できたかというと、決してそうではありませんでした。基本的には通販会社側で「返品特約」を定めているので、それに従う事になります。

おばあちゃんの場合、購入商品はほとんどが衣類でしたが、その特約をじっくりと読んでみると、下着・食品・化粧品などは、衛生面の問題から返品不可となっている事が殆どでした。

返品できるものの場合には、その梱包方法から返金方法にいたるまで細かな内容をひとつひとつ聞いて、その通りに手続きしなければならないので、いま思い出してみても、作業が終わるまでほんとうに疲れる作業を何度もしていたと思います。

最初は仕方ないかと思っていたものも、何度か頼まれているうちに、人間修行の足りないわたしは「おばあちゃん、もうテレビ通販で買わないで!」と、きつく言ってしまった事もありました。

認知症の通販トラブル 母の場合

母はどちらかというとお店で実際に商品を見て購入するタイプだと思っていたのですが、彼女もまたわたしが離れて暮らしている間に、通販でマッサージチェアやエアロバイクなどを購入するようになっていました。

健康器具は買ったけど使わないで置きっぱなしというのは、どのお家でもあるあるだと思うのですが、仕事を辞めて人づきあいも減り、外出もせず、一日中家でテレビばかり見るようになったら注意が必要だと思います。

仕事をしていた頃は現物を手に取り、値段や好みを考慮してお金を出していた品物も、通販番組や再放送のドラマの合間に流れるCMを何度も繰り返し見ているうちに電話で注文するようになります。

わたしが実家に戻った時には、母の部屋には何通もの保険会社からの封筒、いくつものフェイスクリーム類、ほとんど飲まない青汁、サプリメントに加え、各保険会社・通販会社からのレターが定期的に届くようになっていました。

その中で、すべて消費しきったのは、通販生活の薄焼いわしだけです。

当時の母はまだ認知症専門医にはかかっていませんでしたが、良くも悪くも祖母の時の経験があったので、彼女の頭の中が混乱状態にある事だけは、はっきりとわかりました。

家の中になにがどれだけあって、彼女が本当に必要としている物はどれなのかを、まずは特定しなければなりませんでした。(その時に実際したことは、また別の記事でご紹介します。)

認知症ということばも身近になったいまでは、通販会社に電話すると、驚くほどあっという間に対応してもらえます。

認知症の家族の通販購入商品の対処法

できる限り本人の了承を得て行う

通販商品は、本人が購入したことを覚えていない場合がほとんどですが、稀に一緒にテレビを見ていて「あれ、この間これを頼んだのに、まだ届いてない。どうしたのかなあ?」といい出したり、ワクワクしながら「通販で〇△頼んだから、届いたら受け取っておいて!」と頼まれる事があります。

ですから、黙って商品の返品やキャンセルをすると、後で当人と口論に発展したり、信頼してもらえなくなる可能性もありますので、例え仕事やプライベートで忙しく、説明や了承を得る時間を取る事が難しいとしても、可能な限り、本人の了承を得てから行った方がいいと、美愛は考えています。

通販では定期購入がほとんどです

通販では、お試し用に初回だけ無料や半額などのお得な価格で購入でき、二回目以降は定期的に届くというケースが多いです。

特に化粧品類の場合、お値段もそれなりにするのですが、厄介なのが、例えばフェイスクリームなら、ひとつを使い切る前に二回目、三回目が届き、それが部屋の中に放置されていることです。

さらに追加で注文したであろう、他社のフェイスクリームと化粧水などのセットがA4サイズの箱で届いていて、どこからどううみても一回中身を確認しただけで放置してある状態だったり。

認知機能や体力の衰えを自覚しているらしく、認知機能補助食品や軟骨をケアする健康食品まで。郵便ポストには次回半額などの優待をうたったダイレクトメールが頻繁に届き、インターホンが鳴って玄関へ出るとまた新しい箱が届きます。

本人は注文した覚えがなかったり、どうしたらいいかわからなくて、届いた箱を一度開けただけで放置しているケースが多いと思います。

そんな人に、大量の情報を一度に提示したら、更にパニックになって怒り出すこともあるでしょうから、例えばフェイスクリームだけをテーブルに並べてみて、出来ればユーモアも交えて、明るい雰囲気で聞いてみてください。

「定期購入でこれだけ家に届いているようだけど、使い切れそう?それとも、どれか辞めてみる?配送を一旦停止してもらって、使い切ったらまたこちらから電話する事もできると思うよ。代わりに電話して、聞いてみてもいい?」など、本人の希望を確認してみましょう。

どれを購入中止するのかなど決まったら、あるいは「あなたにお任せします」といってもらえたなら、次は電話をします。

通販会社に電話する時に必要な物

まずは家の中から、通販で届いた明細を探します。なければ同封の振込用紙や特典のお知らせなど、通販会社名と連絡先電話番号が書いてあるものを探します。

商品名と企業名が違っていてよくわからない事もありますが、その場合でも恥ずかしがらずに電話をして、現在の購入と配達状況などを聞いてみましょう。

電話が繋がったら最初に、購入者との関係と、購入者本人が「自分で注文したという記憶がない」ことや、「前の物を使い切っていないので、一旦止めて欲しい」などを正直に伝えます。

そのあとは企業によってお客様番号であったり、少しのヒアリングがあります。定期購入の間隔を変えたい場合はそれも伝えましょう。

今後の注文を拒否してもらうこともできます

それでは、本人に注文したという記憶がなく、「また忘れて注文しちゃったらどうしよう?」という場合、今後一切の注文を受け付けないで欲しいというリクエストも出来ます。

私たちの経験では、いまのところすべての企業さんからOKをいただけています。

通販会社の方から「今後もしご本人様からご注文が入った場合には、お客様にご連絡を差し上げてもよろしいですか?」と確認されますので、連絡をして欲しい家族の名前と続柄、連絡先電話番号を伝えれば良いです。

私たちの場合は、美愛の名前と電話番号を登録してもらっています。新しい通販会社の商品が届くことはありますが、注文を停止した通販会社さんからの電話は数年たった今でも入っていないので、再注文はしていないようです。

返品や返金ですが、母の場合は自分で商売をしていた為か、「今回買っちゃったものは仕方ないから受け取るわ」といって、支払いも済ませています。基本的には受け取っていない分の今後の商品についてのキャンセルだけしかしていないのですが、返品や返金に応じてもらえるケースでは、各企業の「返品特約」にそって手続きする事になると思います。

最後に独立行政法人 国民生活センターさんのリンクを貼っておきます。私たちの経験がみなさんの参考になれば嬉しいです。

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